ブラック企業に勤めていた頃の思い出(6)
ブラック企業の特徴の一つは、従業員の入れ替わりが激しいことです。
つまり、新入社員は会社に入ってすぐ辞める、1年、半年ももたない。必然的に社員の平均年齢は若くなり、「若々しく活気にみちた」職場になる(苦笑)。「やる気次第」で「入社1年目で年収ウン百万」「責任あるポジション」になれる「やりがいのある」職場になる(苦笑)。
実際は過酷な労働環境で「年収ウン百万」になるまえにほぼ全員辞めてしまう。そして会社側もそれは織り込み済みで、「やる気のない」人間にはどんどん去ってもらう、というスタンスで経営している。
ただこのような経営スタンスは、スキルがさほど要求されない仕事についてのみ可能です。典型的には飲食店の皿洗いや接客アルバイトのような仕事です。多少スキルが要求される仕事だと、いくらOJTといっても新人教育にはそれなりにコストがかかるので、そう簡単に辞めてもらっては困る。とりわけ少人数の零細企業にそれは当てはまります。
わたしのいた会社は主に食品メーカーやスーパーなどの販促キャンペーンやイベントを企画・運営するのが中心的な業務で、日本におけるその種の仕事の総元締めは電○、博○堂などの大手広告代理店です。その下に無数の下請けがぶら下がっているわけですが、末端になればなるほど特殊技能化しなければやっていけない。
ウチの会社もある特殊技術に圧倒的な強みをもっているという触れ込みで何とか仕事をとってきていたのですが――じつはそれは半ばハッタリに過ぎなかったのですが――それをこなすためにはそのためのスキルをもった技術者とそのアシスタントが2、3名いれば十分できる程度のものでした。
ただそのときその技術者には当然専門的スキルが必要ですが、アシスタントにもある程度の知識と習熟が必要です。特に何らかの資格が必要なわけではありませんが、オフィスソフトが一通り使えてエクセルの簡単なマクロは組めるぐらいは前提知識として必要です(これは一応採用条件にはなっていました)。
それに加えて、他の分野ではまったく必要のない実践的スキルも仕事をする上でけっこう要求されるので、結局会社に入ってから教えるしかないし、覚えるしかない。
したがって会社としては、あまりにも簡単にやめてもらっては困る。しかしその一方で、優しく丁寧に教育するとか、要領を覚えるまでは暖かい目で見守るとか、そんなことがあるわけがない。
それでどうするかというと、簡単に言えば「逃げられないようにする」わけです。